中国・成都を拠点とするオーディオブランド、水月雨(MOONDROP)。「鳴潮」「ドールズフロントライン2:エクシリウム」「崩壊:スターレイル」など、ゲーム作品とのコラボイヤホンをきっかけに知った人も多いでしょう。
同社のコラボ製品は、既存モデルの外装を変えるだけではありません。デザインや付属品に加え、ときには音まで作品やキャラクターに合わせて調整します。
しかも、コラボによる価格の上乗せはできる限り抑える方針です。なぜ、利益を削ってまで細部を作り込むのでしょうか。
ChinaJoy 2026で行われたインタビューから、水月雨が生まれた経緯と、コラボを単なる販売施策で終わらせない理由を見ていきます。
水月雨の原点は「欲しいイヤホンがないなら自分で作る」
水月雨は2015年に設立されたオーディオブランドです。ブランド誕生のきっかけは、水月氏が自分の希望に合うインナーイヤー型イヤホンを市場で見つけられなかったことでした。
当時の水月氏は、耳の奥へ差し込むカナル型イヤホンに抵抗を感じていたといいます。そこで「欲しいものがないなら自分で作る」と考えて最初の製品を開発し、その第1弾がヒットしました。
水月氏は、動画サイト「bilibili」でオーディオ製品を紹介していたオーディオファンです。一方で、子どものころから漫画やアニメなどのサブカルチャーにも親しんできました。
現在の水月雨を象徴する、音楽と二次元カルチャーを組み合わせた表現も、最初から緻密な販売戦略として設計されたものではありません。自身のために用意したキャラクターを製品パッケージに採用したところ好評を得て、現在のブランドイメージにつながったとされています。
市場調査から作られたブランドというより、創業者自身の「欲しい」と「好き」が形になったブランドです。この原点を知ると、水月雨がコラボでも細部へこだわる理由が見えやすくなります。
アニメやゲームの印象を支える、100人超の研究開発体制
キャラクターイラストやコラボ製品の印象が強い水月雨ですが、事業の土台にあるのは音響技術の研究開発です。
徐大力氏によると、同社は収益の大部分を研究開発へ投じています。4Gamerのインタビューでは、研究開発だけで100人を超える人員が所属し、自社工場やグラフィックス、イラスト、マーケティング、カスタマーサポート、ECなどを含めた全体の規模は約300人と説明されました。
同社が重視するのは、既存製品との安さ比べではなく、まだ十分に開拓されていない領域へ踏み込むことです。 市場にまだない製品や、ほかの企業が十分に研究していない分野へ挑戦し、独自の方法で差別化する姿勢を掲げています。
MOONDROPの公式サイトでも、音響測定設備、高精度3Dプリント、ソフトウェアシミュレーションを活用した開発体制を紹介しています。成都には4000平方メートル規模の生産施設があり、研究開発から量産までを支える環境を整えているとのことです。
コラボ作品やイラストだけに目を奪われがちですが、その奥には大規模な開発体制があります。見た目の楽しさと音響技術を切り離さないところが、水月雨らしいポイントです。
価格の上乗せを抑えても、「通常版の着せ替え」にはしない
水月雨は、コラボを既存製品の販売数を伸ばすためだけの施策とは考えていないといいます。
競争力のある新しい製品をベースにしながら、コラボによる価格の上乗せをできる限り抑えるのが同社の方針です。そのうえで、イラストや外箱だけでなく、パッケージ内部の装飾、限定の付属品、イヤホン本体の外観、音の調整まで作品やキャラクターに合わせて変更します。
既存モデルを流用せず、特定のIPとのコラボに向けて新しい製品を開発した例もあるそうです。手を加えるほど、開発や監修に必要な負担は増えます。開発負担が増えても、完成度を落とさないことを優先していると説明しています。
この作り込みを支えるのが、担当者自身の作品理解です。水月雨には日常的にアニメを見たり、ゲームを遊んだりする社員が多く、デザイン担当者がコラボ先IPのファンである場合も少なくないといいます。
持ち込まれた企画をすべて受けるわけでもありません。相手が大型タイトルであっても、社内に作品を十分理解している担当者がいなければ、依頼を断る場合があるとのことです。
知名度だけで企画を選ばず、作品を理解できる人が担当する。外観や付属品、音まで作り込む姿勢からは、作品の魅力を製品全体で伝えようとする考えが見えてきます。
細かな意匠を実現する監修と、作品に合う形状選び
コラボ製品の完成度を左右するのは、デザイン案だけではありません。水月氏によると、最も難しいのは、細かな表現を実現するための説得と監修です。
使える図案を限定したり、パッケージだけを変更したりすれば、監修の負担は軽くなります。ただし、それではファンに十分な価値を届けられないと水月雨は考えています。
特別な意匠を取り入れようとすると、権利元から「このデザインは監修を通らないかもしれない」と伝えられる場合もあるそうです。それでも試作品や完成イメージを示し、魅力を説明しながら再検討を働きかけます。
簡略化せずに残した小さな表現こそ、完成品を見たユーザーの心を動かす。水月氏は、そのように考えているといいます。細部は小さくても、ファンにとっては見逃せない部分なのでしょう。
イヤホンの形状も、一方的には決めません。カナル型、インナーイヤー型、イヤーカフ型などから、作品のユーザーがどの方式を好むかを権利元と相談しながら検討します。
水月氏は、特定の形状だけが常に優れているわけではなく、それぞれに異なる特徴があると説明しました。音質を重視するならカナル型やヘッドホンが有利な場面がある一方、イヤーカフ型にはほかの方式とは異なる装着体験があります。
すべてのユーザーを100%満足させるのは難しい。それを理解したうえで、選んだ方式の中で体験を高めようとするのが、水月雨の考え方です。
日本では公式ストアと正規取扱店を通じて展開
水月氏は日本にも自社拠点を設け、日本市場での活動を進めています。4Gamerのインタビューでは、ECや店頭への展開を代理店任せにせず、自社で行っていると説明しました。
直接展開は価格を抑えられる理由の一つですが、それだけではありません。競争の激しい中国市場で成長してきたため、製品へ高い価格を付ける感覚が強くないことも背景にあるそうです。
日本公式サイトでは、水月雨ジャパン株式会社によるサポート情報を公開しています。Amazonと楽天市場の公式ストアに加え、アニメイト、e☆イヤホン、イオシス、フジヤエービック、ビックカメラ、ヨドバシカメラが正規取扱店として案内されています。
気になるコラボ製品を見つけたときは、価格だけで判断せず、正規販売ルートや国内保証の対象になるかも確認しておきたいところです。
まとめ
水月雨のコラボ製品を見るうえで注目したいのは、採用された作品やキャラクターだけではありません。
ブランドの出発点にあるのは、「欲しい製品がなければ自分で作る」というものづくりへの姿勢です。その考え方はコラボでも変わらず、作品への理解、音響技術、製品デザイン、監修での粘りへつながっています。
今後、水月雨のコラボ製品を手に取る機会があれば、イヤホン本体だけでなく、形状や音の調整、付属品、パッケージ内部の細部まで見てみてください。通常版との違いを追うことで、作品へどう向き合ったのかが、より分かりやすく見えてきそうです。
Sources:
- 4Gamer.net:水月雨(MOONDROP)は,なぜ利益を削ってまでコラボ製品を作り込むのか。ブランドの成り立ちとこだわりを聞いた
- MOONDROP公式サイト:About MOONDROP
- 水月雨(MOONDROP)日本公式サイト:アフターサービス


